すべてのものにはインターフェイスがあります。インターフェイスを形作ることは、そのもののキャラクターを形作ることです。ブランドとは、そのキャラクターを世に伝えるものです。マクドナルド、iPodや任天堂DSを見ていればインターフェイスこそがブランドであることが分かるでしょう。

フォークも、ナイフも、コトバもいらず

横に16段のサブメニュー、、マクドナルドのカウンターに並びながら、私は自然とつぶやいていました。視線を左右にスクロールし、チーズバーガーを脳内のショッピングカートに追加します。16段、でも使いやすい。「チーズバーガー、クダサイ」そう言って、キャッシャーの画面とフライドポテト調理器具のインターフェイスに何気なく目を滑らせたところで、私ははっとしました。そうか。どうして今まで気がつかなかったんだろう。外国人として日本で暮らし、私がマクドナルドに来たくなるのは、マクドナルドでは言葉が要らないからでした。同じような予算でも、少し頭を使って、漢字を読んで、そして日本語で注文する気にさえなれば、もっとおいしいものが食べられるのです。でも、そんな気にはならなかったみたいです。腹が減っては戦は出来ぬ。

脳内ストレスゼロで、腹を満たす方法

マクドナルドは、とても利用しやすい。私は考えました。そしてマクドナルドのインターフェイスは世界中で同じです。その通り。これが彼らの成功の秘訣です。シンプルなインターフェイス。店に入って、注文をして、代金を払って、食べるのに、何も考えなくてもいいのです。マクドナルドは、私たちに頭を使わせません。マクドナルド・ブランドからの腹ペコ武士たちへのメッセージです:優しく貴殿をお迎えします。そして、脳内ストレスなしに、満腹にして差し上げましょう。

サンドイッチでも、時に複雑なり

お会計を済ませながら、私はもう少しこのアイデアに浸ってみることにしました。そして、チーズバーガーを注意深く観察してみました。やっぱり。チーズバーガーは私たちの考えうる中でも最高に簡単なインターフェイスを備えています。フォークいらず、ナイフ要らず、スプーン要らず、皿要らず、箸要らず。サンドイッチのようでありながら、サンドイッチより甘くて、柔らかくて、そして何より「規格化」されているのです。チーズバーガーを食べる行為には、何の不安も、驚きもありません。あの「唯一最高に使いやすいインターフェイス」-乳首-をすら彷彿とさせるシンプルさです。

規格化されたことで、チーズバーガーのインターフェイスはブランドとなりました。マクドナルドのチーズバーガーしか、マクドナルドのチーズバーガーには見えません。包みを解いて、パンと、肉と、ケチャップとマスタードのカラー・パターンを眺めてみました。まさしく、これが、マクドナルドのチーズバーガーです。

マクドチーズバーガー

名刺にチーズバーガーを印刷してみる

私がもしゃもしゃとチーズバーガーを咀嚼し、糖分が私のシナプスをくすぐっている間、私はこのチーズバーガーの写真にパンチのきいたキャッチコピーを加えて名刺の裏側に印刷することを考えていました。家路につき、私はこの記事を携帯電話に打ち込みはじめながら、そのキャッチコピーについてもまだ思いをめぐらせていました。シンプルに、たった二語と記号までに練られたコピー。ちょうど我が家のドアの前まで来たところで、私はひとり、うなづいてしまいました。私の、ちょっと自慢の新しいコピーは、こうです。

インターフェイス=ブランド

インターフェイスがブランドであるなら

そんなこんなで、ラップトップに向かって今さっきからの記事を書きながら、私は自問しました。もしかして、これは職業病というやつではないだろうか。と。毎日インターフェイスや、ユーザビリティの問題、ブランディングについて考えているうちに、こういったものの見方をやめられなくなってしまったのかもしれません。しかしながら、まだ言わせていただきます。もし、インターフェイスがブランドであるならば、ブランドはインターフェイスであるということも言えるのではないでしょうか。近年の成功したブランド・コンセプトを見ていればそれは分かります。

皮相的解説

早とちりで知ったかぶりの方々は、こうおっしゃるかもしれません。ブランドは一貫性からアイデンティティを生み出し、そしてそこから信頼が生まれるのだと。一見論理的な意見です。しかし、ブランドは論理ではありません。心なのです。ブランドをインターフェイスとして見れば、ブランド・エクスペリエンスはユーザー・エクスペリエンスであるという概念が少しお分かりいただけるでしょうか。人々はユーザビリティについて分析したりしません。ただ、楽しむのです。カスタマー・ユーザビリティとは、使い勝手がいいかどうかの問題なのです。そして、使い勝手がいいとは、いちいちの動作について、考えなくてもいいということです。

iPod対Zune、DS対PSP?

iPods

iPodがうまくいっているのは、その使いやすさからです。ところで、iPodのロゴはどこにあるのでしょう?なんと、製品の裏側についているのです。ここで、インターフェイスはブランドとなります。ユーザーは、iPodの分かりやすいインターフェイス(クリックホイールとスクリーン)を見て、そして周囲の人は白いイヤープラグで、iPodを見分けるのです。

Zune

そして、これがZuneがコピーにしか過ぎない理由の一つです。どんなにたくさんの機能をアピールしても、Zuneは独自のインターフェイスを持たないのです。ユーザーにも、周囲の人に対しても。Zuneはただ、ちょっと飾りをつけたiPodと、適当なイヤホンにしか見えません。オリジナルの型がここまで強力だった時、コピーはオリジナルを超えることは出来ません。

任天堂DS対PSP

よりシンプルであると言うことは、必ずしも引き算ではありません。任天堂ゲームボーイの後継機種をご覧ください。任天堂DSにはスクリーンが二つあります。初めてこれを見たとき、私は少々がっかりしました。ドンキーコング・マルチスクリーンシリーズの再来?

Nintendo ドンキーコング、マルチスクリーン版

それが、そうでもありませんでした。ドンキーコングとはまったく違った、独特で、シンプルで、そして驚くほど使いやすいコンセプトです。上部画面でゲームを追い、下部画面でオプション操作をします。DSはインターフェイスの観点から言えば、PSPを完全に打ち負かしました。そして、WiiとPS3の話はするまでもないでしょう。。。

ピンクのNintendo DS

このように例えを挙げていくとキリがありません。ダイソンの掃除機と、世界中の他の掃除機をご覧ください。ダイソンは、高機能にきちんとお掃除するだけでなく、ユニークで、大変使いやすいインターフェイスを備えています。スターバックスとその他のマネコーヒーショップ。WYSIWIG(見たまんまのものが、手に入る=what you see is what you get)の典型例です。レゴとすべてのレゴっぽいおもちゃ。Coca-Colaとペプシ(ボトルを比べてみてください)等など。

Flickr, Craigslist, Ebay, Youtube

GoogleサーチとそっくりサンのYahooを比べて見てください。どちらが勝者ですか。オリジナルが勝つのです。強力なオンライン・ブランド、例えばFlickr, Craigslist, Ebay, Youtubeなどは、ユニークで、シンプルで、分かりやすいインターフェイスを備えています。そして、これらのサイトは負けません。これらのサイトは単なる表層的な「顔」なだけではなく、インタラクティブであり、インターフェイスであり、そしてプロダクトそのものであるからです。これをただコピーしたって、うまくいくはずありません。

マーケット・リーダーとありがちに複雑なインターフェイス??

拡張可能ではないのアマゾン情報アーキテクチャー

明らかにダメなインターフェイスで成功することができるのは、マーケットで一番に動き、そして運が良かった場合か、ある製品においてはすでに市場を独占状態にしている場合くらいです。MySpace, Amazon, MSN, Windows, QuarkXPressなどをご覧ください。複雑なインターフェイスでも、一度マーケットリーダーになってしまえばユーザーが離れることはなかなかありません。ユーザーにしてみれば、もう再び、面倒くさい操作方法を新しく覚えるというつらい過程をたどりたくない、というトラウマができているからです。でも近頃は、シンプルさやユーザビリティが勝つ、というケースも多くなってきました。この二つが強いブランドを作り出すことが出来るのも、今です。

衝撃を:ニールセンの強烈なアイデンティティ

強力なユーザビリティとシンプルさ、そして明確な焦点を得たサイトは、強力なアイデンティティを持つようになります。ヤコブ・ニールセンの例は衝撃的ににこれを示唆していると言えるでしょう。世界中にファンを擁するヤコブ・ニールセンのアンチ・グラフィカルなウェブサイトはデザイン的には失敗とも言える外観を備えながらも、ユーザビリティを強烈に優先したことで、強いアイデンティティを持つようになりました。あらゆるデザイン的センスを排除したことで、非常に特徴的なサイトとなりました。ブランディングとは、美しさではなく、強さの話なのですCraigslistdeliciousのリンク・カラーはあまり美的ではありません、でも強烈です。インタラクティブ・サイトとして、彼らは機能性を追及することによって、力を得るからです。 それから、Facebookは非常に使い勝手の良いサイトです。もしかするとより大胆なインターフェイスとブランドアイデンティティを持ちうるウェブサイトの先例になるのではないでしょうか。

名刺にレゴを?

そんなわけで、レゴブロックを名刺の裏に印刷する、というのも面白い気がしてきました。もしかしたら、ブロックそのものを貼り付けてもいいかもしれません。「Interfaces make brands(インターフェイスがブランドとなる)」というコピーと一緒に。でなければ、裏面はチーズバーガーで、上には小さな赤い囲みをつくって、そこに「Interface = Brand(インターフェイス=ブランド)」というのもいいでしょう。英語ノンネイティブとしては、コピー的には、どれがいいのか。というのも迷いどころです。

  1. Brand = Interface
  2. Interface = Brand
  3. Interface creates Brand Experience
  4. Interface defines Brand Experience
  5. Interfaces make brands
  6. UI=Brand
  7. Interface=Identity

ブランドはインターフェイスと同義、外見とは違う

ブランディングとは、単にロゴを作り出すことではない。というのは単純な真実であり、そしてブランド・コンサルタントと呼ばれる人々が長年戦ってきたことでもあります。しかし、つい最近になるまでこのことは、明確にはされてきませんでした。ブランドはインターフェイスと同義であり、しかし外見を意味するのではありません。 近頃、多くの製品は使いやすさを向上させました。インフォメーション・デザイナーの視点から言わせていただければ、多くの消費者がインターネットを利用するようになったことがこの使いやすさの向上の一つの要因と考えられます。消費者はウェブ経験を通じて、モノを買うときにユーザビリティを考えるようになりました。企業の企画部門は、優れたインターフェイスがどれほど成功につながるか、そして財務部はユーザビリティがどれほどの利益と結びつくか、ということをより考えるようになりました。そしてマーケティング部門はただ露出が多ければ売れるわけではないと言うことを学んだようです。

そして、マクドナルドで私の得た教訓は?ハンバーガー(プロダクト)がどんなに醜くても、成功することはできると言うことです。たくさんの糖分と、ブランド・アイデンティティを形成する強力で、使いやすいインターフェイスがあれば。

おすすめ本

ヒューメイン・インタフェース―人に優しいシステムへの新たな指針(ジェフ・ラスキン著)必ずや、目からウロコの書籍です。Macintoshの父であるジェフ・ラスキン氏が、病に倒れ早すぎる死を迎える少し前に書いた傑作です。現代の天才へのレクイエムです。あまりに素晴らしい本のため、早く最後まで読みたくて一日仕事をサボってしまったくらいです。この本を読み終わらずして、それまでやっていたことに戻るなんて不可能だと思ったくらいです。この本は、私が自分自身に向かって、今何を、どうしてやっているのか、という説明をするのに大きな助けとなりました。彼の書くものは、大胆でありながら、思わずうなづかせるものばかりです。

スイッチを入れてから、コンピュータが起動し始めるまでに数秒以上かかる技術的な理由はありえない。

見た感じ、彼のウェブサイトはそこまで惹きつけるものではありませんでした。でも、内容は最高です。彼は、自分を神格化しすぎている、という人もいます。また、現代のインターフェイスを理解していない、という批判もあります。それでも私は、ラスキン氏は、かなり進んだアイデアの持ち主だと信じています。彼が本の中で書いた理想のインターフェイスは、アップル社をしても、実現するまでに数年かかることでしょう。技術的には、とっくに可能であるとしてもです。